断片ログ



【そめふぶ】

 頭の隅でずっと思っていたのだが、出会いは夏のことだったのでわからなかった。初冬の部活帰りのコンビニ、アイスケースの前で正体はこれだと悟る。
 会計を済ませて携帯を取り出し、『前から思ってたんだけどよ、お前って雪見だいふくに似てて』うまそうだよな、と続けて文字を打ちそうになってはっとする。オレは一体何を言おうとしているんだ。
 肉まんを買ったらしい円堂が言う、
「あれ染岡、今日アイスって寒くないか?」
 うるっせえな、と怒鳴ってしまってきょとんとされた。顔が熱いから冷たくてちょうどいいぐらいだ。










【円鬼】

 キスしていいか、といつも丁寧に訊かれるので、そういうのって礼儀なんだと思っていた。じっと横顔を見つめていたら鬼道が振り向く。
「なんだ円堂」
「えっと、あのさ、……キスしてもいい?」
 そんなことか、と鬼道は呆れた顔をする。
「あ、いや、嫌ならいいんだ」
「そんなことは言っていないだろう」
 鬼道のほうからしてくれたけど、いちいち訊くな、恥ずかしい奴だな、と怒られた。
 うーん、どっちが正しいんだ?







【豪虎】

 何も言わずに彼は言葉をただ待っている。怖がっていると知られるのだけは絶対嫌で、まっすぐにその目を見上げた。
「……知ってますよね、俺の気持ち」
 悪いがお前に応えることはできないと、そう言われて終わるのを本当はどこかで覚悟していた。
「そうだな」
 と、これまで見たこともないような顔で彼が笑って、もっと取り返しがつかなくなるだなんて、まさか。










【影フィ】

 サングラスに覆われた私の目を見つめているつもりで、監督、と少年は私を呼んだ。
 こちらからは見下ろす形の視界、燃えるように輝くのはきわめて優秀な子供の目。指示されたミッションをやり遂げて、いま果たすべきことをまだ何か見落としてはいないか、注意深い懸念の色を秘め、それでもなお期待にきらめいている。
その表情を知っている。いまとなっては記憶の墓に埋めてしまった、あの子供が自分に見せていた顔だ。
 だがここにいる少年はそうだ、あれよりもずっと愛されることに慣れていて、私に臆するところがない。
 その強い視線と裏腹に、懇願するように少年は言う。
「どんなことでもやってみせます。だからあなたの指示が欲しい」
 どんなことでも、などというのがやはり子供の甘さではあった。本当にどんなことでもできるというのなら、私を動かしてみせればいいのだ。










【そめふぶ】

「ごめんね、こんなの困るよね」
 涙声でうつむく吹雪を前に、わかってんなら泣き止めよ、と殴りたいような気分で思う。
 気持ち悪いよね裏切られたって思ったらごめんお願い嫌いにならないでとか、そんなのは全部俺がこれまでぐずぐず悩んでいたことで、ああ、俺が殴りたいのは自分だ。










11.01.25

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